Russian Indie Guide-ロシアのインディーロックガイド

ロシアのインディーロック、その知られざる素晴らしき世界

IC3PEAK

IC3PEAK

IC3PEAK Facebookより
バンド名(ラテン表記)  IC3PEAK
バンド名(ロシア語)  
出身地 モスクワ
活動期間 2013-
ジャンル
electronic, experimental, witch house, electronic rock
オフィシャルサイト IC3PEAK
音源・動画サイト Apple Music spotify Amazon Music youtube bandcamp Discogs
SNS instagram Twitter facebook

 

バイオグラフィー

IC3PEAKは「アイスピーク」と読み、「ice peak」または「I  speak」、「Eyes speak」の意味を持つらしい。Anastasia(Nastya) Kreslina(Vo)とNikolai(Nick) Kostilev(all instruments)の男女デュオである。AnastasiaはデザインやMVなどのビジュアル面もすべて担当している。自らを「視聴覚テロ(audiovisual terror)」と定義しているように、社会批判的な姿勢を持つユニットである。
2013年10月にモスクワで結成。2014年に初のEP「SUBSTANCES」をリリース。歌詞はすべて英語である。同年2nd EP「Vacuum」をリリース後に初めてのヨーロッパツアーを行い、ボルドー、パリ、リガ、プラハヘルシンキなどで公演。2015年に1stアルバム「IC3PEAK」をリリース。以後コンスタントにアルバム、EP、シングルをリリースし、海外公演も頻繁に行っていたため、ロシア国内よりも先に海外での人気を得る。この時期は歌詞も英語でそれほどロシア色は出しておらず、「個性的なウィッチハウスアーティストの一つ」として海外で認識されていたものと思われる。
2017年11月、彼らは4枚目にして初めてのロシア語アルバム「Сладкая жизнь(Sweet Life)」をリリース。このアルバムからのビデオクリップ「Грустная Сука(Sad Bitch)」の視聴数は現時点で7300万回に達し、一躍彼らの名前を知らしめた。現在につながる彼らの映像的なスタイルを確立したビデオである。この辺りからロシア国内での人気も急激に高まっていった。

2018年9月には5枚目のアルバム「Сказка(Fairly Tale)」をリリース。このアルバムからのビデオクリップ「Смерти Больше Нет(Death No More)」は現時点で1億4千万回もの視聴数で、彼らの一番見られているMVである。

強烈な印象を残すこのビデオは彼らのロシア政府批判の姿勢を明確に表現しており、政権から目を付けられる事となった。政府はこのビデオが政府への侮辱と自殺の助長を促し、未成年のファンへの悪影響があるとして、彼らのコンサートを中止するように脅迫電話をかけてきた。2018年12月1日のノボシビルスクでの屋外コンサートで彼らは警察に連行・拘留され、以降ロシア国内でのコンサートが出来なくなった。この事は世界中から注目され、多くの著名人がロシアの表現活動に対する検閲への反対を表明した。

www.npr.org2020年4月には6枚目の、ロシア語アルバムとしては3枚目の「До свидания(Goodbye)」をリリース。2022年2月24日にロシアがウクライナへの侵攻を開始すると、彼らは繰り返しウクライナへの支持を表明し、戦争が終わるまで印税の一部をウクライナに送金するとの声明を発表。侵攻開始後間もなくMV「Dead But Pretty」を公開し、7枚目のアルバム「Kiss of Death」をリリース。
彼らのVK(旧ソ連諸国で一番普及しているSNS)アカウントはロシア国内ではブロックされている。

音楽性

彼らは元々は「ウィッチハウス」(2010年前後に興隆したエレクトロニックミュージックの一ジャンルで、ダークで虚無的、ホラーとオカルトのイメージを取り込んでいる。ロシアでは海外よりも長くこのシーンの人気が続き独自の発展を遂げた)と呼ばれるシーンから出てきたアーティストであるが、他のジャンルの要素も貪欲に取り入れ、ゴシック風味の実験的なエレクトロニックミュージックを作り続けている。アブストラクトなヒップホップの要素も強く、最近ではよりストレートに怒りを表現できるパンク的なスタイルも取り入れている。
ナスチャの時に幼女のようにも聞こえるソプラノと、ニックの冷たさと透明感に不気味なグリッチをミックスしたエレクトロニクスサウンドがトレードマークだ。英語で歌っていた頃はナスチャのヴォーカルは楽器の一つとしての存在であったが、ロシア語で歌うようになってからは存在感を強め、ロシアの民族的な要素も取り入れホラーとおとぎ話が合体したような独自のサウンドに昇華していった。
また彼らは海外のアーティストとも積極的にコラボしていて、GhostemaneやZillaKami(City Morgue)、Oliver Sykes(Bring Me the Horizon)、Grimes、Kim Dracuraなどがシングルやアルバムに参加している。

彼らの歌詞は社会批判的なものが次第に増えていったが、MVを見るとより理解しやすい。「Плак-Плак(Crying-Crying )」(「しくしく」とでも訳せばいいだろうか)はロシアの現代社会で問題になっている女性へのDVを扱っている。ロシアではDV被害に遭った女性を保護する法律がなく、夫を殺してしまう事件が後を絶たないそうである。
Shortparisは社会批判をするにしても歌詞では抽象的に表現しているが、上で書いた「Смерти Больше Нет(Death No More)」の歌詞を見てもIC3PEAKは意外とはっきりと書いている。

私は目を灯油で満たす
燃やしてしまえ、燃やしてしまえ
ロシア全土が私を見張っている
燃やしてしまえ、燃やしてしまえ
(略)
金の鎖を首に巻かれ、私はこの沼に沈んでいく
私の血はどんな純粋なドラッグよりも純粋
私が新しい家でジョイントを巻いている間に
あなたは広場で警察に連行されるでしょう

このせいで政府からロシア国内でのライブを禁じられてしまったが、それがかえって彼らへの熱狂的な支持を煽った。新しくMVを公開すれば瞬く間に100万再生だ。美しき「視聴覚テロ」で戦う彼らを応援していきたい。

彼らについてはこちらの記事でも書いているのでどうぞ。

russianindieguide.hatenablog.com