Russian Indie Guide-ロシアのインディーロックガイド

ロシアのインディーロック、その知られざる素晴らしき世界

ロシアのインディーロックを掘る理由/このブログを書いている理由

National Geographic より「真冬のバス停」(ロシア北東部の都市ススマン)by Johnny Haglund

ここの所ちょっと忙しくて、なかなか記事を書けなくてすみません。SNSはちょいちょい更新しているので、このブログのX(Twitter)Instagramをご覧いただければ幸いです。Xではよりリアルタイムな情報、Instagramではここより気楽なコラムっぽいものを書いています。

前回の記事を書いてからこの記事を書くまでの間に、ナワリヌイ氏がおそらく殺害され、ウクライナ侵攻も三年目に入ってしまった。さらにはモスクワ郊外のクロッカス・シティー・ホールでの銃撃事件(これは「ソ連時代のロック」で採り上げたPiknikのライブ会場だった)という大惨事も起きてしまった。
ここで一つの節目として、私がロシアのインディーロックを掘っているより個人的な理由と、なんでこんなどニッチなブログを書いているのかという事について書いておきたいと思う。

 

なんでロシアのインディーロックを掘っているのか

私がロシアのロックと出会ったきっかけは、この記事で書いているのでまずは読んでいただきたい。

ざっくり言うと、2019年11月にイギリスの音楽メディア経由でShortparisを知り、そこから広げていったらロシアのインディーシーンのレベルの高さに驚いて掘りまくった、という感じである。ちょうどパンデミック期と重なっていたのもいくらか影響はあると思う。私が掘り始めた時期とMolchat Domaが世界的に人気を拡大していった時期が重なっているのも今考えると面白い。その辺はこちらの記事を読んでほしい。

Drab Majestyの来日

振り返ってみて、ロシア沼にはまる一つのターニングポイントとなったのではないかと思うのが、2020年2月のDrab Majestyの来日である。彼らはアメリカ、ロサンジェルス出身のダークウェイヴ/ポストパンクデュオであるが、私はメンバーがまだ一人だった頃のかなり初期から追いかけていた。その当時の彼らはアメリカでもLAのローカルバンドに毛が生えたくらいだったが、徐々にアンダーグラウンドで人気が出て行き、Smashing Pumpkinsの前座をやったりMVに出演したりする程になった。2019年頃にはおそらく世界で一番人気のある若手ダークウェイヴバンドの一つになっていた(ダークウェイヴ自体がアンダーグラウンドなので誰もが知っている、という訳ではもちろんないが)。
そんなDrab Majestyが2020年2月に来日するという事を知って書いたのがこの記事である。↓

coldburn.blog2.fc2.com

これは私が長年書いてきた主に英米バンド中心のブログの記事であるが、ほぼ無名だった頃から自分のTwitterでずっと推してきた彼らが遂に来日するまでになった、という感慨深い気持ちから書いたものである。
もちろん来日公演には行った。会場が青山の「月見ル君思フ」だったのもあって(ステージのバックに満月がある)、幻惑的なステージは本当に素晴らしかった。2020年2月は「武漢で新型コロナウィルスというものが爆発的に広がっている」というニュースが毎日流れ、このライブの直前に大阪のライブハウスでの集団感染があったと記憶している。でも東京のライブハウスにはまだ危機感はそれほどなく、この日のライブも無事開催できた。マスクはしていなかったような気がする。しかしこの時のDrab Majestyのアジアツアーに組まれていた香港公演は中止になった。
次のオーストラリア/ニュージーランドツアーまで少し間があったので、Drab Majestyの二人は東京公演の後一週間以上日本で遊んでいたようだ。2月後半はまだ日常通りで、「ステイホーム」の前代未聞の事態になったのは3月以降だったような。
このライブからまだ一度も東京に帰っていない。ライブも見てないんじゃないか?今年はさすがに一回帰りたい。とにかくコロナ禍が終わってほんとによかった。今ではあの日々が幻のように感じる。

「Drab Majestyロス」、あるいは「やり切った感」

Drab Majestyのような無名だったバンドが成長して来日までした流れを逐一目撃すると、なんだかやり切ったような気持ちになった。「自分の目に狂いはなかった!」という満足感はあったが、次は誰を発掘すればいいのかと。
もう一つアメリカのAuthor & Punisherというヘヴィーなドゥーム・インダストリアルの人もずーーっと応援してきたのだが、彼もToolの前座に起用されて以来知られるようになり、今では欧米でヘッドラインツアーができるまでになった。自分の目の付け所は正しかったのは嬉しいが、「次の推し」をどうすればと。もちろん彼らの事は追い続けるけど、やっぱり発掘したい。

私にはこの春大学生になった娘がいるし立派なおばさんであるが、普通このくらいの年代の人は新しい音楽を掘るよりも20代くらいまでに聴いていたものを聴き続けるのが大半だと思う。うちのダンナもそうだ。
でも私はこれをやったらもう人間として「退化」だと思っていて、未知の音楽を掘らずにはいられない。あと飽きっぽいというのもあると思う。20代の時に聴いていた音楽は現在の私の核になってはいるが、そればっかじゃ飽きてしまう。新しいものに触れ続けるのは感性の老化防止に本当におすすめだ。

ただ、もう長い間音楽を聴いてきたので、英米の音楽はなんとなく「やり口が分かってしまった」というか、新鮮味が感じられなくなってきていたのも事実ではあった。そりゃ新しいバンドは毎日生まれているし聴いたことのないジャンルもあるけど、自分の聴いてるようなジャンルはマイナーとは言えSNSで容易に情報が手に入るし、「ああ、このレーベルから出してるからこんな感じの音だろうな」とかすぐ予想できてしまう。以前もこの「音楽的不感症」を患ったのだが(これはサブスクでありとあらゆる音楽が聴ける事から起きた)、Drab Majestyを見付けた事で治った。しかしまた発症。

そんな時に、そのルーツなども全く予想もつかないロシアのインディーロックの面白さに惹かれていったのであった。

ロシア沼にはまる

右も左も分からないので仮説を立てて掘り進む

Drab Majestyを見に東京に行った帰り道、「いまさらですがソ連邦」を読んでいたのを覚えているのでもう結構ロシアの事は掘り始めていたのだと思う。ロシアのインディーロックのレベルが恐ろしく高いのは分かったが、自分が良いと思ったバンドが果たしてロシアのシーンにおいてどういう位置にいるのか、というような事はさっぱり分からない。そもそもロシアのインディーシーンの規模も分からないし、中心的なバンドが誰なのかも分からない。インディーを知るにはその対極のメインストリームの事も把握する必要があるが、誰がメジャーなのかも分からない。とにかく右も左も分からないし、日本語で解説しているサイトも皆無と言っていい状態だった。
初心者が英米のロックを知りたいと思ったら、ガイド本や解説サイトは山程あるのでまぁ迷子になる事はないだろう。「自分はパンクに惹かれるらしい」と思ったら、まずはSex Pistolsから聴くとか段階を踏みやすい。しかしロシアのロックについてはこういった地図のようなものが全くなかった。

まるで大海原に浮かぶいかだに乗っているような気分だったが、まずはApple Musicの関連バンドやインディー系プレイリストを手掛かりに探っていった。Shortparisの音楽は本当に完成度が高いし、MVも極めて高品質だ。そんなバンドがロシアで無名であるはずがない。何らかの中心的な位置にいるはずだ。そういった仮説を立てて、少しづつ自分なりの地図を作っていった。
Shortparisの関連バンドのIC3PEAKやGlintshake/GSh(ГШ)、Spacibo(Спасибо)などはすごく気に入って、Googleフル回転していったらこれらのバンドが参加していたBol(Боль) Festivalの事を見付けた。このフェスティバルはロシアの新しいインディーロックシーンの形成にものすごく寄与したものだったと後で分かったが、ここから解きほぐしていったのはかなりいい着眼点だったと思う。長年英米アンダーグラウンドのロックを聴いてきた事で培われた勘が役立った。このフェスについてはこちらの記事で書いているのでどうぞ。


数多くの現代のロシアのインディーバンドを聴いていくうちに、2010年代初頭には英語で歌っていたバンドが、後半にはロシア語で歌うようになる、というケースがやたらあるのに気付いた。これは絶対に何か理由があるはずだ。

ロシアという西側とは違う構造を持つ国の音楽を掘るには、社会や政治、歴史について知らないと理解できないという事は直感的に分かっていたので、ロシア関係の本を読んだり、Twitterでロシアや東欧の独立系ニュースの英語アカウントをフォローした。こうしたアカウントは2020-21年のベラルーシの反政府デモや、20年のアレクセイ・ナワリヌイの毒殺未遂と21年の拘束といった事も日本のメディアよりも詳細に報じていたので、かなり理解の助けになった。

そうした事から、ロシアのバンドが英語を捨ててロシア語で歌うようになった時期は、2012年のプーチンの大統領再選と2014年のクリミア併合が分岐点になっている事に気付いた。ロシアのインディーシーンにはプーチンの動向が濃厚に影響してるのは明らかだ。これに気付いた時はちょっとした知的興奮を覚えた。音楽はやはり社会の動きを反映しているのだ。
英米のロックの歴史にもある程度政治的な出来事が影響しているとは言え(ヒッピームーブメントやパンクなど)、知らなくても済んでしまう面はある。これは自由主義社会だからだろう。しかしロシアのような権威主義国家では言論統制は音楽表現に直結する。やはりプーチンが具体的にどういう事をやって来たのか調べなければならない。ロシアという国は普通の日本人からはなかなか理解が難しい国であるから大変ではあるが、音楽と国家の関係を調べるのは非常に面白い経験だった。こんな事は誰もやってないし、発見の連続だった。政治の動きに音楽シーンは逐一反応していた。

以上のように、自分が立てた仮説が、詳細を調べていくと事実だった、というのが多数あり、ロシアの事を掘るのがますます面白くなっていった。この間ウクライナ侵攻という悲劇が起きてしまったが、これによってロシアの専門家がこぞってロシアという国を解説してくれるようになったのでさらに分かりやすい状況になっていた。
またMolchat Domaが海外で人気が出ていったのもコロナ禍における社会不安が下地にあり、ロシアのポストパンクが「Russian Doomer Music」としてニッチな人気を得ていったのは自分と同時進行だったのも分かって面白かった。自分の興味は世界的な無意識とリンクしていたのだ。何しろロシアのバンドは本物の絶望を表現しているのだから、いくら西側のバンドが鬱ぶってみても敵う訳ないのだ。

言ってみれば長年音楽を聴き過ぎて「英米のロックに飽きてしまった」ような状態だったのだが、「現代ロシアのインディーロック」という誰も知らないものを解きほぐす事がすごく面白くなっていた。英米ロックで得た知見を使って「より難しい問題を解きたい」というような感じだった。
英米のバンドがどの辺から影響を受けているのか、というのは日本人からも分かりやすいが、ロシアは見当が付かない。それを掘り起こすのも面白かった。必然的にソ連のロックも掘る事になったが、それによって大きな物語が見えてきたのもちょっと感動的だった。鉄のカーテンで阻まれていても、ソ連の若者たちは敏感に西側の音楽をキャッチし、自分たちなりに落とし込んでいった。さらに現代のバンドは普通に西側のバンドを聴いていたが、自分達のルーツに改めて気付いて新しいインディーロックシーンを作っていった。西側と東側、現代と過去はちゃんとつながっているんだという事が見えてきて、西側の音楽だけを聴いていた頃には分からなかった視点が持てたのも大きな収穫だった。

「非英語圏」のロックシーン

さらにロシアのロックの歴史を掘っていると、日本のロックの歴史と重なる部分が多い事にも気付いた。要するにロシアも日本も「非英語圏のロック後進国」なのだ。ロシアの事を調べていると、自然と「この当時日本の状況はどうだったっけ?」と振り返る事が多くなり、グループサウンズとか全然興味がなかったものも新鮮に映った。ロシアも日本もビートルズ以降ずっと英米の音楽に憧れて、真似をしながら試行錯誤してきたのだ。

私はほぼ100%英米のロックで育ってきて、日本のロックを聴くようになったのは大人になってからだ。それもかなり偏った聴き方をしてきたので、この機会によって日本の大きな流れにも興味を持てるようになった。90~2000年代の日本のロックはアンダーグラウンドしか聴いてこなかったが、去年(2023年)の夏、ふとしたきっかけで椿屋四重奏にドンハマりした。日本のメジャーからも出したバンドはあんまり聴いてこなかったので、これはかなり自分的に新鮮な体験だった。
椿屋四重奏にハマったのは、絶対にロシアのインディーを掘った事が影響していると思う。なぜなら彼らは日本語表現に強くこだわったバンドだったからだ。これは現代ロシアのインディーバンドがロシア語回帰し、「自国語で歌う」という意味をよく考えたからだと思う。

またロシアのポストパンクを掘っていると、YouTubeなどのアルゴリズムが「こいつは英米以外の音楽に興味があるんだな」と判断するようで、南米のダークなポストパンクバンドをおすすめしてきた。元々Motoramaのようなロシアのベテランポストパンクバンドの動画にはスペイン語のコメントが多い事に気付いていたが、多分ゴスやポストパンクの人気が南米では高いのだろう。知られざる濃密なシーンがある可能性が高い。

ロシアの音楽を聴く事によって、あまり普通の日本人が知らないような国の音楽シーンにも興味が持てるようになったのも収穫だった。

なんでこのブログを書いているのか

とにかく溜まりまくった情報を吐き出したい

そんなこんなでロシアの音楽の事もだいぶ分かって来たが、こんなにクオリティの高い音楽が西側でほとんど知られていない事に怒りにも近い感情が湧いていた。それでも私がShortparisをイギリス経由で知ったのもあるし、ヨーロッパはまだ多少はましだ。日本の脆弱な「洋楽メディア」は英米にしか目を向けていないし、あっちの媒体のコピペ状態なのは昔から変わらない。
そんな訳で、ロシアの現代インディーロックを日本でももっと知ってもらいたい、という気持ちが日に日に強くなっていった。またロシアのインディーの情報が自分の中で蓄積されていく一方だったので、それをどこかに吐き出したい、というのもあった。やはりロシアンインディー専門のブログを新しく立ち上げよう、と思いこのブログのアカウントは結構早めに取っていた。

しかしロシアの音楽について書くには、まずはロシア社会の事や政治、国際関係などについて説明しなければならない。自分もそうだったように、大部分の日本人はロシアの事をほとんど知らない。でもロシアの専門家でも何でもない自分にとってはこれは荷が重すぎる。まだ分からない事ばかりだし。なのでなかなか手を付ける事が出来ずにいた。

ウクライナ侵攻

せっかく取ったこのブログアカウントも放置していたが、2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻した。あの時のショックと罪悪感のようなものが入り混じった感情は一生忘れる事はできないだろう。多分殺人犯の家族はこんな気持ちになるのかも知れない。自分がせっせとTwitterでおすすめしてきたバンドの国がウクライナで虐殺をしている。
でも自分が聴いているような若いインディーバンド達がほとんどInstagram反戦表明していたのは幸いだった。ニュースではプーチンを支持する「プロパガンダに洗脳された哀れなロシア市民」ばかり映るが、彼らの言っている事は私たちの価値観と変わらない。ロシアの若者にはちゃんと話が通じる人達がたくさんいるのだ。

しかし侵攻が続くにつれて、ロシア国内の言論統制も苛烈になっていき、反戦姿勢を続ける者は国内にいられなくなっていった。私が好きなバンドも、一つ、また一つとロシアを出て行った。当然Oxxxymironのような反政府の大物ミュージシャン達もロシアを出たが、彼らは元々莫大なお金を稼いでいたので海外でも暮らしていけるだろう。しかしインディーバンドはそうはいかない。経済的に苦境に立たされても反戦を貫く事を選んだ彼らは尊敬に値するし、こういうバンドを好きになって本当に良かった、と思った。

いよいよブログ開始

書いている理由

侵攻が続く中ロシアのシーンの状況を見ていると、侵攻には反対だがまだキャリアも浅くロシア国外でやっていける見込みがないため、政治的な発言を慎み国内に残るバンドも多いのが窺われた。ロシア語の壁もあり、CIS諸国以外で活動するのもなかなか難しいだろう。
ロシア国内の検閲は常軌を逸したものになっており、ちょっとでも反政府的な事を発言したら、刑務所に行くか国を出るかの二択しかないような状況だった。

もしロシアのインディーロックが西側でも聴かれるようになれば、反体制派のバンドも国外に出て活動しやすくなる。侵攻後もMolchat Domaベラルーシだけど)はアメリカの大規模フェスに何度も出演していたし、彼らのような活動ができればかなり希望が持てるだろう。
そのためには何をすればいいか?自分にできるのは、ブログでロシアの良いバンドを紹介する事だ。せめて日本で少しでもロシアのバンドを聴いてくれる人が増えてくれて、日本公演ができるくらいになれば上々だ。
現在ロシアの数少ない友好国である中国はビザも取りやすいようで、ロシアのインディーバンドもかなりツアーしている。Shortparisもつい最近やっていたし、Plohoもやるようだ。Motoramaは何度もやっている。こうしたバンドが日本のすぐそばまで来ているのに・・・ 彼らが日本まで足を延ばせるような日が来る事がとりあえずこのブログの目標だ。

とにかくロシアのインディーバンドがかわいそうでならない。経済的な事で良心を曲げなければならないのは気の毒過ぎる。こんな弱小ブログにできる事は少ないかもしれないが、なんとか彼らを助けてあげたい。それが私がこのブログを書いている理由だ。
またUvula反戦表明した事によって政府のブラックリストに入れられ、解散を余儀なくされた事もかなり原動力となっている。クソプーチンのせいで自分の好きなバンドが解散させられた。ものすごい私怨で書いている。

意識している事

ロシアのバンドの事を書いている日本語のサイトを死ぬ程検索していると、やはり西側でのリリースがあるバンドについてはたまに書いている人がいた。Molchat DomaアメリカのSacred Bonesという有名インディーレーベルから出しているのでフィジカルも容易に入手でき、特にロシア語圏という事を意識しない人にも受け入れられている感触があった。トルコのゴス/ポストパンクのShe Passed Awayが受け入れられているのと同じ感じだ。
またイギリスのJazmin Beanのような「原宿カワイイに影響を受けたやや病み系女性ポップシンガー」系を聴いている人がIC3PEAKに言及しているのも結構見かけて面白い。Nastyaが少女のような歌い方をするからだろうか?

ただ、これらの現代ロシアの音楽にちょっと興味があると思われる希少な人達でも、あくまでも点でMolchat DomaやIC3PEAKを知ったのであって、そこから先にはなかなか進めないようだった。Molchat DomaやSovietwaveからAlyansに触れている人もいたが、その先は難関だ。そりゃ無理もない。ロシア語サイトも気合を入れて調べないと全体像はなかなかつかめない。

あと昔ソ連にいた事がある人とか、おそらく共産党関係の人がたまに懐かし気にKinoの事を書いているのも見かけた。しかしこのような人は年齢的にかなり行っている人だろうから現代の音楽とのつながりを含めた視点はない。

私が書きたいのは点ではなく一連の流れであるので、過去と現代、西側と東側が相互に与えあった影響を明らかにしたかった。それには歴史的・政治的な背景も分かりやすく書く必要があり、「こういう音楽が生まれたのは、こうした背景があるからなんだよ」という事を説明するのが必要だった。
こんな事を調べている人は日本にはほとんどいないだろうから、もう半ば使命感を持ってやっている。背景が分かればその音楽の言葉が分からなくても伝わるものは多くなる。

あと日本人は自分達の事を棚に上げて、「第三世界」の音楽を馬鹿にするような傾向があるのが個人的にちょっと許せない。特に「洋楽リスナー」を自認する人に多いのだが、自分が英米の音楽を聴いてるからといって自分も英米人であるかのような上から目線で、こうした国の音楽を珍奇なものであるかのように笑うのである。これは自分でも実際に結構目にしてきたのだが、他国の文化には敬意を払うべきだ。日本人だって外国人から日本の例外的なバンド(ゴールデンボンバーとかカブキロックスとか)をあげつらわれて笑われたら嫌な気分になるだろう。
人間は相手の背景が分からないとステレオタイプなイメージで単純化する。だから私の場合はロシアの音楽の流れをきちんと説明して、リスペクトを促したい。

「政治的」過ぎる?

また、このブログはウクライナ侵攻を絡めすぎだと思う人もいるかも知れない。「音楽に政治を持ち込むな(ちょっと前のフジロックでありました)」か?
しかし現実的に現代のロシアはプーチンとの関係性を考えなければ何も見えてこず、特にインディーロックシーンは反プーチンの流れで生まれたのであるから絡めない訳にはいかない。

それと、私がウクライナ侵攻に肯定的なミュージシャンに厳しい視線を送り過ぎだと感じる人もいるかも知れない。
確かに侵攻肯定派にも優れた音楽をやっている人も多いだろう。それは疑いようもない。ただ、このブログは「反プーチン派インディーミュージシャン」を軸に書いているので、それはそれとしてこのブログの趣旨としてご理解いただければと思う。

2023年5月から、「一体こんなニッチなブログを誰が読むんだろう?」と思いつつもコツコツ書いてきたが、最近ちょっと反応が出てきたので嬉しい限りである。
Instagramでロシアのネオフォークやマーシャルインダストリアルを掘っているという宇田川岳夫さんという方にフォローしていただき、このブログを読んでくださっているとの事でびっくり。また宇田川さんと一緒にロシアの現代ロックについてのイベントを開催した持田保さんにもフォローしていただき、同じくこのブログを読んでくださっているとの事で感謝感激であります。持田さんの著書「INDUSTRIAL MUSIC FOR INDUSTRIAL PEOPLE!!! 雑音だらけのディスクガイド 511選」の事は存じ上げていたので、「自分もそうだけど、インダストリアルを掘ってきた人はみんな最終的にはロシアに行きつくんだなぁ」と妙な感慨を覚えた(笑)。

で、宇田川さんからロシアのネオフォークやマーシャルインダストリアルのバンドを教えていただいた。マーシャルインダストリアルというのは要するにイギリスで言えばDeath in JuneとかCurrent 93みたいなやつである。ネオフォークとマーシャルインダストリアルの境界は曖昧だが、異教的・呪術的・魔術的なフォークロアアンビエントといった感じか。
私はロシアのこっち系はあまり知らなかったので大変勉強になったが(Theodor Bastardくらいしか知らなかった)、案の定「政治的にヤバい」バンドもかなりいるようだった。

Death in Juneは1981年結成で現在も活動しているが、キャリアを通じて「ナチス信奉」のイメージが付いて回っている。Douglas P.の思想はナチ・パンクのような単純なものではないのは十分分かっているが、まぁこっち系のバンドにはなんとなくそういうイメージがある。
現代音楽シーン、特にヨーロッパで「異教的(pagan)」というと、自分達(白人)の祖先に回帰した民族主義的な方向に振れがちであり、さらには人種差別的なものになって結果的にネオナチとつながるパターンが多い。もちろん純粋に古代の音楽にインスパイアされたものをやっているだけのバンドも多いが。
教えていただいたロシアのこういうバンドもネオナチ系やユーラシア主義のがかなりいたので、圧倒的にリベラルな人が多いインディーロックばかり聴いていた私にとってはロシアの別の面を見せられたようであった。

私はDouglas P.も参加していたCurrent 93のアルバムも何枚か持っているのでこっち系には無縁ではないし、ロシアのにも非常に興味があるが、特に戦争に直結しているロシアのそういうのを聴くのもなんだか後ろめたい気もするし、複雑である。
そういうバンドを深く掘っていくとどうしてもその思想に触れざるを得ないし、親近感がわいて「こういう風に考えるのも一理あるよなぁ」なんてなったりしたらと思うと・・・。
現在メディアにロシアの専門家としてよく出てくる佐藤優氏(元外交官でモスクワ駐在経験あり)は度々その親露的な発言で批判されているが、彼や鈴木宗男氏のようにクレムリンに近い所にいた人ほどロシア政府の主張に取り込まれてしまう傾向があるし(「ロシアには侵攻せざるを得ない事情がある」みたいな)。

だから、このブログにはそういうネオナチ的なバンドも載せるべきなのかどうか。いやでもそもそもこのブログを始めたのはロシアの反戦派バンドの存在を知らせたかったからだし。でもロシアのブラックメタルにはNSBM(National Socialist Black Metal、要するに人種差別的なネオナチブラックメタル)バンドも多いし、片方だけのバンドしか採り上げないのはどうなのか。ってかネオフォーク系のネオナチバンドって若者?おっさんなら分かるが。いやしかしブラックメタルやる人は若者だしな。

・・・とまぁ現在も悶々としているが、やはりこのブログは反戦バンドを応援するという方針を採りたいと思う。個人でやってるブログだし。ウクライナ侵攻を支持するようなバンドは許すことはできない。

長くなったが、ひとまず私がこのブログで伝えたい事はこんな感じである。またロシア社会とユースカルチャーの関係を書いている人もほとんどいないと思われるので、そういう方面からロシアを見るきっかけになればとも思っている。顔の見えない集団としての「ロシア人」ではなく、個の人々として見てもらえればと思う。