Russian Indie Guide-ロシアのインディーロックガイド

ロシアのインディーロック、その知られざる素晴らしき世界

Spasibo(Спасибо)

Spasibo

Spasibo Facebookより
バンド名(ラテン表記) Spasibo
バンド名(ロシア語) Спасибо
出身地 モスクワ
活動期間 2013-
ジャンル indie rock, post-punk, psychedelic rock, shoegaze, surf rock
オフィシャルサイト  
音源・動画サイト Apple Music spotify Amazon Music youtube bandcamp Discogs
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バイオグラフィー

Spasibo(Thank youの意味)は2013年にモスクワで結成された。Rasel Rakhman(Vo,G)を中心に、Igor Myalkin(B, Vo)、 Igor Shaevsky(G)、そして Konstantin RaiduginとPavel Eremeevのツインドラムという一風変わった編成のバンドである。(彼らは具体的なバイオグラフィーがネットで見付からないのでメンバーの変遷はいまいちよく分からず。現在もツインドラムなのかどうかは不明)モスクワのアンダーグラウンドシーンで確固とした存在を誇っている。ライブパフォーマンスが素晴らしいのでまずはこれを見てほしい。

2014年にデビューアルバム「В сомнениях(In Doubt)」をリリース。翌2015年には2ndアルバム「Норм(Norm)」をリリースし、この辺りから彼らの個性がはっきりとしてきた。2017年に3rdアルバムの「Навсегда(Forever)」、2019年には4thにしてセルフタイトルアルバムの「Спасибо」をリリース。2021年には5枚目の「Терпение(Patience)」をリリースしている。彼らのアルバムはすべて自主制作のDIYベースだったが、モスクワのインディーレーベルAnchor Lightsによって再リリースされている。
2018年4月には新しいタイプのバンドを紹介するモスクワのフェスティバルБоль(Bol, painの意味)がヨーロッパで行ったロシアのバンドのショーケースツアーに参加し、Shortparis、Glintshake(ГШ)、Kazuskoma(Казускома)、Electroforez(Электрофорез)と共にミンスクワルシャワポズナン、ベルリン、カリーニングラードでライブを行った。

彼らはモスクワのアンダーグラウンド・パンクシーンの要のバンドの一つで、Pasosh(Пасош)、Lucidvox、Vyebi, yemu, Donatello!(Въеби, ему, Донателло!)等と仲がいい。そのためこれらのバンドのメンバーとのサイドプロジェクトもやっていて(LucidvoxはSpasiboのアルバムにコーラスで参加したりしている)、Rasel RakhmanはPasoshの元メンバーとSeminar(Семинар)というバンドを、またIgor MyalkinはVyebi, yemu, Donatello!のメンバーとRytsarnyyeRytsari(РыцарныеРыцари, 英語でKnight'sKnightというらしい)というバンドを並行してやっていた。しかしIgorはSpasiboが2021年に「Терпение」をリリースした後に脱退。Vyebi, yemu, Donatello!も「別プロジェクトに一旦専念したい」という理由で休止状態なので、二人でRytsarnyyeRytsariの活動を本格化させたいためだと思われる。Igorの抜けた後はCruel Tieのベーシストがサポートで弾いているようだ。
ウクライナ侵攻でRaselは音楽活動への情熱を一時失っていたようだが、2023年3月にSeminarの新作をリリースしている。

音楽性

Spasiboは1stアルバムの頃はポストパンク的な音(とは言えややサーフロック的で変わっていた)だったが、2nd以降はポストハードコアの香りがほのかに漂う、サイケデリック要素もあるインディーロックという、ロシアでは比較的珍しい個性的なサウンドに固まっている。メンバーが影響を受けたものにクラウトロックがあるとのことなので、その辺が差別化の一因だろう。IgorのRytsarnyyeRytsariもロシアではあまり見かけない骨太なノイズロックなので、メンバーのセンスはロシアのアンダーグラウンドシーンではやや異端的なのかもしれない。

↑1stからの曲「Полный провал(Complete Failure)」。サーフギターがロシアのバンドから聴けるとは思ってもみなかった!

↑3枚目の「Навсегда(Foever)」からのこの曲「Мы больны(We Are Sick)」はBlack Sabbathの影響を感じさせるような音で、ポストパンクの流れからは一線を画している。

これも3rdからの曲で「Короткие встречи(Short Meetings)」。このサウンドが彼らの今に通じるスタイルで、どこか90年代のUSインディーやポストハードコア、エモを感じさせる。ロシアの特にポストパンク系のバンドはとにかく閉塞感のある鬱サウンドが多いが、彼らにはそれはあまり感じず、抜けの良さと疾走感がある。

4枚目のセルフタイトルアルバムからの曲「Считалочка(Counting)」。私が初めて聴いたのがこのアルバムだった。Shortparisで初めてロシアのバンドを知ってあまりの良さに驚いたのだが、例外的に良いのではないかと思っていた。しかしSpasiboのこれをたまたま聴いてみたらまた超当たりだったので、こんな頻度で当たりバンドを引くなんてもしかしたらゴロゴロいいバンドがいるのかもしれないぞ、とロシアのバンドを猛然と掘り始めたのであった。
2021年リリースの「Терпение」では本当に成熟した素晴らしい演奏を聴かせているので、是非サブスクやBandcampでも聴いてみてほしい。彼らの真骨頂はライブパフォーマンスにあるし、USインディーっぽい音なのでUSツアーをしたら絶対に支持を集めるのではないかと思うのだが・・・。ちなみに彼らのインタビューで出てみたいフェスを聞かれたところ「Coachella」と答えていたので、ツアーをやってみたい気持ちはあるだろう。いつか実現できることを心から祈っている。まさに「良いバンド」である。

彼らについてはこちらでも書いているのでどうぞ。

russianindieguide.hatenablog.com