Russian Indie Guide-ロシアのインディーロックガイド

ロシアのインディーロック、その知られざる素晴らしき世界

2024年お気に入りアルバムベスト10

明けましておめでとうございます。このブログのInstagramに2024年の個人的お気に入りアルバムトップ10を投稿したので、それを再構成してこちらにも上げようと思います。ロシアに限らず、国はいろいろです。

Zetra / Zetra
ШТАДТ(STADT) / How to Behave in the Beehive
RJD2 / Visions out of Limelight
Thus Love / All Pleasure
Diiv / Frog in Boiling Water
Soft Play / Heavy Jelly
Teen Mortgage / Teen Mortgage
Molchat Doma / BELAYA POLOSA
Спасибо (Spasibo) / Dom
Her New Knife / Chlome Is Lullaby - EP

「Best of 2024」はZetraのセルフタイトルデビューアルバムで、これは最後に。またШТАДТ(STADT) の「How to Behave in the Beehive」は別記事で書いているので、そちらをご参照ください。トップ1以外は順不同な感じです。

Albums

RJD2 / Visions out of Limelight

Bandcamp

オハイオ州コロンバス出身のベテランヒップホッププロデューサー、RJD2のソロ8作目です。私が彼を知ったのは、アメリカの大ヒットドラマ「Mad Men」のテーマ曲に"A Beautiful Mine"が使われていたのがきっかけです。50年代末〜60年代にかけてのニューヨークの広告業界が舞台のドラマの、登場人物達のダンディーなファッションによく合うちょっとレトロでシネマティックなこの曲で興味を持ち、以降ずっと聴いてきました(ドラマも大傑作です!)。

2002年のソロデビュー作”Deadringer”が不朽の名作として知られますが、スケールが大きく緻密な音作り、最高にかっこいいリズム感覚と、ヒップホッププロデューサーでは一番好きな人です。ゲストでラッパーやシンガーも入りますが、やっぱり一部の隙もない完璧なサウンドプロダクションが存分に感じられるインストゥルメンタルが大好きです。古い映画を思わせるサンプリング使いもセンス抜群!
今回の新作では初期のようなスリリングな音作りが炸裂していて、素晴らしいアルバムです。タイプ的にはDJ Shadowとかが好きだった人におすすめです。

↑これはこのアルバムからの1stシングルで歌ものですが、個人的にはもっと攻めたインストの方が好きです。5曲目「Es El Nuevo Estilo」とか最後の「Asphalt Lamentations」みたいな曲が最高です。

Thus Love / All Pleasure

Bandcamp

アメリカヴァーモント州の田舎町で結成されたバンドの2ndで、1stの”Memorial”はInstagramアカウントがロシアンインディーブログのアカになる前の2022年のベストとしても投稿してるので、この新作はとても楽しみにしていました。前作は翳りのあるポストパンクでしたが、今作ではもっと吹っ切れたようなロックンロールアルバムになっています。
前作の時にEchoのヴォーカルの存在感に感心しましたが、今作ではロックスターオーラも感じさせるものとなっています。すごいいい声してるんですよ。今の若手ポストパンク系シンガーの中ではトップクラスなんじゃ?
彼らは当初3人組で、全員トランスジェンダーという事でしたが、今作では1人抜けて2人加入したので、トランスジェンダーという事に取り立てて言及する必要はないのかも。とにかくいいバンドなので、ライブが見たいです!

Diiv / Frog in Boiling Water

Bandcamp

USシューゲイズの筆頭格の4枚目です。発音は「Dive」と同じ。2011年のデビュー後アメリカインディーシーンで台風の目として注目され、一度Vo/GのZachary Cole Smithのドラッグ依存症のリハビリなどを挟みましたが、クオリティの高い作品を出し続けています。今作はキャリアで一番いい作品なんじゃ?楽曲構成が成熟を感じさせるし、本当に美しいアルバムです。陶酔感がすごい!

Soft Play / Heavy Jelly

YouTube Playlist

2012 年にSlavesというバンド名でデビューしたイギリス出身のデュオです。2022年にSoft Playに改名しましたが、未だに配信アプリなどではSlavesと表示されてて気の毒です(笑)。
私はギター(またはベース)とドラムだけのデュオっていうバンド編成が結構好きで、彼らもデビュー時から気に入ってました。音は荒々しいノイジーなパンクです。最初からメジャーレーベルに所属してるのでUKチャートのトップ10にチャートインしてましたが、この4枚目はなんと3位!これまでで最高位です。
いかにもイギリスの労働者階級っぽいシニカルなユーモアが感じられる作風で、エネルギーに溢れたぶっといパンクサウンドは健在。とは言えラストの"Everything and Nothing"は美メロの歌もので、ポテンシャルの幅広さが感じられました。来日した事あったっけ?見たい!

Teen Mortgage / Teen Mortgage

Bandcamp

彼らもユーモラスな骨太パンクデュオです。アメリカのワシントンD.C.出身で、これがデビュー作です。と言ってもオリジナルアルバムじゃなくて、これまでのシングルやEPを集めたコンピなのかな?Death From Above 1979とかのサポートをしてるし、ああいう系統です。私の好きなジャリジャリしたサウンドのパンクで、威勢が良くてかっこいい!最近はSmashing PumpkinsWeezerのサポートも勤めているので、これからガンガン来ると思います。今年はフルアルバム出るのかな?期待の若手です。

Molchat Doma / BELAYA POLOSA

Bandcamp

このブログを見てる人は大抵彼らから入ったんじゃないかと思われるご存知ベラルーシ出身のポストパンク3人組で、現在ロシア語で歌うポストパンクとしては異例の世界的成功をしているバンドの4枚目です。
私がブログを始めたのも、彼らがどんどん世界的に知名度が上がってきているのに、日本では旧ソ連のシーンに全く関心が持たれていなかったからというのもあります。
パンデミックのロックダウン期間中にTikTokでバズって人気が出たというのも2020年代の売れ方だし。
しっかり売れた後の待望のアルバムなので、どことなくサウンドにも余裕が感じられます。音質がいいのが、「今までのはあえてのローファイじゃなかったんかい!」と言いたくなりますが、風格も感じさせる内容です。
現在はLAに活動拠点を移してるようですが、ロシアンポストパンクで来日するとしたら一番可能性があるバンドなので、なんとか実現してほしいです。Molchat Domaの個別記事もあります。

Спасибо (Spasibo) / Dom

Bandcamp

モスクワ出身のパンクバンドの6枚目。私がロシアのインディーを知ったのはShortparisがきっかけですが、次に知ったのが彼らで、そのクオリティーの高さに「今のロシアのシーンはヤバい事になってんじゃないか?!」と猛然と掘り始めました。
「ありがとう」という意味のバンド名の彼らはモスクワのアンダーグラウンドパンクシーンの要となっていましたが、現在はセルビアベオグラードに拠点を移しています。90年代のUSインディーのような香りのするちょっとエモで実験性もあるサウンドで、何より楽曲の質が高いのが魅力のバンドです。本来のポストハードコア(Fugaziみたいな)のような魂が感じられる、ロシアではちょっと珍しいタイプなんでは?鬼のようにライブもこなしてるから上手いし。
今作では新しい目標に向かって一皮むけた感があり、光に向かって走りだしているような爽快感のある作風となっています。
ライブ最高だからアメリカツアーできればなぁ。

なお彼らについての個別ページもあります。これを書いた時から大分状況も変わったので、更新しなきゃと思ってます。

 

Her New Knife / Chlome Is Lullaby - EP

Bandcamp

これはEPなんですが、昨年2月にデビューアルバムも出てます。でも10月リリースのこのEPの方が方向性も定まって良い内容で、最近よく聴いてます。数ヶ月間で著しい成長が感じられます。
ペンシルヴァニア州フィラデルフィア出身のシューゲイズバンドですが、この作品ではちょっとインダストリアルサウンドにも接近しているような、ノイズ風味もある音になっています。フィラデルフィアのシューゲイズシーンは盛り上がっているらしいですが、頭一つ抜けるためにはこの方向性を伸ばしてほしいです。期待の新人!

Best of 2024   Zetra / Zetra

Bandcamp

2024年に一番聴いたのはZetraのこのデビュー作です。私のInstagramのストーリーもよく見ている方は何度も彼らの事を上げていたので「好きなんだろうなぁ」と感じていらしたと思いますが、めちゃめちゃ気に入ってます♪

彼らはロンドン出身のデュオで、初めて知ったのは、ちょうど2年くらい前に彼らが名門メタルレーベルのNuclear Blastと契約する、というニュースを読んだ時です。フランスのNew Noise Magazineだったかな?それには彼らの音がType O NegativeとDrab Majestyをミックスしたような、と形容されていて、その2バンドが大好きな私は「ムムムッ?!」となり、すぐに音を聴いてみました。その通りでした。「これは絶対来るぞ!」とその日から彼らを追いかけ始めました。

その時点ではまだEPとシングル、自主制作のデモアルバムしか出ていなくて、正式アルバムが出るのを首を長くして待っていたんですが、なかなか出ない。でもその間ヨーロッパのメタルフェスに出たり、私の好きなGodfleshやAuthor & Punisherのロンドン公演のサポートをしたり、精力的にライブをやっていたようです。マネージメントが実力を付けさせるために経験値を増やす方針だったのかな、と思います。で、2024年になってからかな?HIMのVille Valoのソロツアーのサポートに起用されて、ヨーロッパでの人気に火が付き始めたみたいです。YouTubeのコメントに「VVで知ってファンになった」というのがたくさん!

で、2024年の9月にやっとこのアルバムが出ました。長い間待った甲斐のある、素晴らしいアルバムです。
サウンドゴシックメタルをグーーーーンとポストパンク寄りにしたような感じでしょうか?彼らはブラックメタルみたいなフェイスペイントをしてますが、元々のスタートは今時っぽくブラックメタルだったのかな?今はシンセ主体の音になってます。
やっぱりType Oのギターサウンドに、Drab Majestyの浮遊感を合わせたような音がというのが一番分かりやすいんじゃ?ヴォーカルはType OのPeterみたいなディープな声質とは正反対の、天使のような優しい声です。この辺、最近USツアーでサポートしたHEALTHのヴォーカルに近いかも。リッチなシンセサウンドがこの世ならぬ世界に誘います。
「gothic synth dream pop」ですかね?

このアルバムは曲が本当によくできていて、アルバムの完成度は極めて高いと思います。待っててよかった!耽溺してしまいます。何度も聴きたくなる、本当に魅力的なアルバムです。

ゲストにイギリスのポストハードコアバンドSvalbardのSerena Cherry(彼女の声の方が漢!)や、アイスランドのゴシックバンドKælan MiklaのSolveig Mathildur、そしてアメリカのゴシックメタルバンドUnto OthersのGabriel Francoも参加しています。

最初は彼らのコープスペイントはいらないんじゃないかと思ってました。彼らは”Spirit of Zetra”(ゼトラの精霊、みたいな感じ?)なるものによって遣わされたバンド、のような設定があって(笑)、それを全うするにはやっぱりあのペイントがあった方が世界観にハマれるか、と思い直しました。設定系のバンドは好きなので、こりん星みたいに爆発しないように頑張ってもらいたいです(笑)。

カルトバンドになりそうな雰囲気ムンムンなので、これから絶対ブレイクしますよ!まだ無名だったDrab Majestyを見つけた時みたいな空気を感じます。

おまけ Best Single of 2024

Sputn1k / Boys Never Cry

@ic3nick

boys never cry

♬ original sound - sputn1k

2024年、IC3PEAKのNickがソロプロジェクトのSputn1kとしてシングル2曲を出し、特にこの「Boys Never Cry」はずっと頭をグルグルしていた曲なのでベストシングルとして挙げたいと思います。IC3PEAKについては個別記事がありますのでそちらもどうぞ。

Nickの歌声は初めて聴きましたが、囁くような優しい声で繰り返すフレーズは妙に耳に残ります。タイトルはやはりThe Cureの「Boys Don't Cry」をもじったものでしょう。儚いような、それでいてどこか意志の強さも感じさせる曲で、何度も聴きました。この曲の動画を探していたのですが、TikTokにショート動画がたくさんあるのを初めて知りました。フル尺の動画も見たいですけどね。

 

 

なおジャケットの少年はNick本人のようです。

 

最近日本のアンダーグラウンドシーンにすっかり疎くなってしまって、日本のバンドが一つも入っていないのが心残りです。ライブ行かないとなかなか分かんないよな~。でもロシアのインディーバンドの事はなんとなくつかめるんだから、できない事はないはず。